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  ・遠赤外線加熱と近赤外線加熱


  1. 遠外線ヒーターと赤外線ヒーターの放射波長と加熱の特徴
  2. 加熱効率 
  3. エネルギー密度と遠赤外線加熱の誤解



1. 遠外線ヒーターと赤外線ヒーターの放射波長と加熱の特徴

ここでは温度放射を利用した赤外線ヒーターについてのみ解説します。
温度放射とは物質を高温にした時にそこから放射される電磁波(広義での光)です。
温度放射以外の光加熱方法としてはレーザー加熱などがあります。

近赤外線ヒーターとは一般的に電球(ハロゲンランプ)であり、2000〜2800℃程度の発熱体から放射される光を利用します。ピーク波長は約1μmであり、0.5〜3μm程度の範囲に分布します。
これは可視光をかなり含み、眩しく感じます。これについてはガラスに着色するなどの方法で可視光を減じる対策方法もあります。

発熱体温度を2000℃程度またはそれ以下に設定すれば、さほど眩しくはありません。

 遠赤外線ヒーター
 
 

遠赤外線ヒーターとはセラミック、石英、金属酸化面などの比較的低温( 500℃〜1000℃)の発熱体から放射される光を利用します。
ピーク波長は3〜5μmであり、1〜15μm程度の範囲に分布します。かすかに赤熱する程度であり、可視光はほとんど含まないので、眩しくありません。

赤外線加熱を使用する場合、以下の様な赤外線の性質を考慮し、遠赤外線、もしくは近赤外線ヒーターの使い分けをお勧めします。

遠赤外線はほとんどの物体を透過しないため、ごく表面(0.1〜0.2mm)の加熱になります。
そのため接着剤の加熱に遠赤外線ヒーターを使った例では、たとえそれが透明に近い接着剤でも表面が焼け、内部まではなかなか熱が伝わりません。
近赤外線ヒーターの場合には浸透(透過)して内部からも加熱されるため、内部から泡が出てきます。
そのため、接着剤加熱用にはこの近赤外線ヒーターが適していると言われています。

印刷した紙を加熱すると、遠赤外線ヒーターの場合には全体的に加熱されます。
近赤外線ヒーターの場合には印刷文字や写真の部分が強く、加熱されて白紙の部分はあまり加熱されません。
つまり、近赤外線は被加熱物の表面状態(色など)により、吸収度合いに差があり、加熱度合いにムラが出やすい傾向があります。

例えば、近赤外線ヒーターで肉を焼くと、焦げ始めたところが黒くなるので近赤外線をよりよく吸収するようになり、さらにその部分が集中的に加熱されるという循環がおこり、局部的に強く焦げます。
この特徴を活かし、部分的に加熱したい場合には加熱したい部分だけを黒く塗装しておけば選択加熱ができることになります。



2. 加熱効率

近赤外線ヒーターは通常、通電開始後1秒間程度で使えますが、遠赤外線ヒーターは30秒〜数分間かかります。

供給電力の放射エネルギーへの変換効率は、近赤外線ヒーターでは90%程度となり良好です。
遠赤外線ヒーターの場合は60〜70%程度でかなり悪くなり、赤外線にならなかったエネルギーロス分は主に空気を温めます。

近赤外線ヒーターから出る可視光線は加熱に寄与しない、と勘違いされている人がいますが、可視光も吸収された光エネルギーは全て熱に変わります。

近赤外線は木材、紙、布、人体などの比較的淡色の物体に対しては一般的に吸収率が遠赤外線よりも悪くなりますが、ヒーター自身の変換効率を考慮すると差は少なくなり、更にヒーター自身の立ち上がりに要するエネルギーと時間のロスも考慮すると必ずしも遠赤外線ヒーターの方が効率が良いとは限らず、むしろ近赤外線ヒーターの方がエネルギー効率が良い場合が多いです。

更に高反射材で閉鎖空間を作り、その中で加熱する場合、高い総合熱効率が期待できます。(これを空洞化熱といいます。)
これは最初の照射で吸収されずに反射された光も壁面で再反射され、また被加熱物体に当たり再吸収されるという事を繰り返すために、高い吸収率となるものです。この場合の総合熱効率ηは壁面の面積をS1,吸収率をD1とし、被加熱物の表面積をS2、吸収率をD2とすれば

  効率η≒S2×D2/(D1×S1+D2×S2)×(ヒーターの変換効率)

閉鎖空間とまではいかなくても、大きな反射板で被加熱物体を覆う様な場合には、上記に近い状況となり、高い総合熱効率になります。



3. エネルギー密度と遠赤外線加熱の誤解

ヒーターの発熱体から放射されるエネルギー密度は近赤外線ヒーターが高く、遠赤外線ヒーターに対し、その差は20〜40倍にもなります。

集光ミラーで赤外線を一点に集めても、発熱体の表面エネルギー密度以上には原理的に決してなりませんので、遠赤外線ヒーターではあまり高いエネルギー密度は与えられません。
(遠赤外線ヒーターは数w/cm^2程度。近赤外のランプヒーターは100w/cm^2以上です。)

したがって、遠赤外線では急速加熱や高温加熱、スポット加熱は難しく、このような用途では近赤外線ヒーターが適しています。
工業用では加工速度やエネルギーコストが重視されるために、ほとんどの場合、急速加熱が求められ、工業用加熱では近赤外ヒーター(ランプヒーター)が有利です。

急速に加熱できる場合には、できるだけ高いエネルギー密度を与えて短時間で急激に温度上昇させた方が電力消費効率が非常に良くなります。低いエネルギー密度で長時間をかけて温度上昇させる場合、目標温度に達するまでの被加熱物体からの放熱がロスとなるためです。
急速加熱と低速加熱では必要電力量が数倍になることもあります。

近赤外線ヒーター加熱(ランプヒーター)は遠赤外線ヒーターの数十倍のエネルギー密度を与える事が可能なので、このような場合には高いエネルギー効率が期待できます。
目標温度に達した後は必要に応じて電源を切ったり、パワーを下げて目標温度をキープするようにコントロールしたりします。
 
但し、大きなエネルギー密度を与えて急激に加熱するのは、被加熱物の種類によっては適さない場合もあります。
例えば厚肉の食材などを加熱する場合には表面だけが焼けて内部の温度が十分には上がっていない、ということも考えられます。このような場合には低いエネルギー密度で長時間かける必要があります。

遠赤外線加熱の場合には、もともとエネルギー密度が低く、必然的に加熱に長時間かかるので内部まで熱が伝わりやすいのですが、近赤外線ヒーターでは場合によってはエネルギー密度を下げるようにコントロールする必要があります。
ちなみに、ごく表面でしか吸収されない遠赤外線に「物体内部に浸透して内部から加熱される」などという誤解が生れたのは、エネルギー密度が低くて加熱に時間がかかったのが原因と思われます。



 


 
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